「おばちゃんたちのいるところ」(松田青子 中公文庫)を読みました。
短編が17つ入っています。
登場人物が同じなど関係がある話もない話もありますが、共通点はどれも「幽霊」(もしくは幽霊らしきもの)が出てくる点です。
でも全然怪談ではありません。
幽霊に出くわした登場人物は多少は驚きながらも、その存在をすんなり受け入れます。
勤める人間の半分が幽霊という、謎の会社も現れます。
変な人間たち
人間のほうもおかしな人が多いのですが、「ひなちゃん」という短編に出てくる女性は、友達と釣りに出かけて偶然人骨を釣り上げたことがきっかけで、江戸時代に殺された女性の幽霊の訪問を受けます。
川で死んだため泥だらけで現れた幽霊を、お風呂に入れて洗ってあげるのです(ヴェレダのバスミルクを入れて!)。
恋に酔っている主人公がおもしろいような、その自由さが羨ましいような。
幽霊の方も変
「みがきをかける」のおばちゃんの幽霊は、長年お妾さんをしていた人です。
相手に「もうええやろ」と言われたことに逆上して自殺してしまったけれど、
「あほやったわ、うち」
と死んだことを後悔しています。
そして、相手の心に一生傷を残せるような、おどろおどろしい技を開発するねん、と元気いっぱいなのです。
読んでいるうちに幽霊っていいなあ、こんな幽霊になれるなら死ぬのも悪くないよなあ、と思えてきます。
「彼女ができること」の幽霊は、シングルマザーの家に行き、お母さんが帰ってくるまで子どもを見守ります。
幽霊はこのベビーシッターを天職だと感じていているのですが、まずはシングルマザーを観察して報告書にまとめ、上司に承認を得たのちでないと仕事にかかれません。
この彼女と上司がいるのは、先にも書いた半分が幽霊だという不思議な会社。
この不思議な会社に死んでから勤めるようになった男性が、こう言っています。
生きている人間には、何かあると死ぬっていう大きな制限がある。死ぬ肉体を持っているって、ものすごく窮屈だ。
そして、死んだやつの方が元気だなと思うのです。
幽霊ばかりでなく、不思議な存在も登場します。
「君、きつねに似ているね」とよく言われるクズハさんは、勉強も仕事もよくできて幸せに暮らしています。
50代で山登りにハマり、初めて自分の本当の姿はきつねだったと気が付くのです。
もしかして、こんな人いるかも?